2013年7月25日木曜日

TPP交渉開始 農業の未来 農民作家 山下惣一 ニュースウォッチ9 文字起こし



昨日のニュースウォッチ9の中で
農民作家、山下惣一さんのインタビューを放送していました。

TPP交渉が開始され
これからの日本の農業はどうなっていくのか、
農業に従事している人だけではなく
国民全体の関心も少しずつ高まってきていますが、
農業従事者と、スーパーで野菜を買うだけの私たちの間には
まだまだ大きな溝があるようにも思います。

国の農業政策に強い疑問を感じながら、
しかし日本の農業には大きな希望を持っている
山下さんのお話がとても印象深く
たくさんの方に見ていただきたいインタビューでした。



VTR

農作業のかたわら40冊を越える小説やルポルタージュを執筆。
率直、かつユーモアあふれる語り口で
農村や農家の実態を発信し続けてきました。
山下さんは農業が経済的視点だけで語られることに
強い違和感を持っています。



山下
去年のように今年があり、今年のように来年があるっていうのが一番ありがたいですよ。

これをわれわれは安定と言うが、一般の経済社会ではこれを停滞というんだもんねえ。

原理原則は違うんじゃないでしょうかね。


大越
われわれ、農業は成長の源、成長戦略、成長の余地があるということをよく言うが、

それは山下さんの考えからすると?


山下
私は農業は成長しちゃいけないんだと思いますけどね。




山下さんは米とみかん、野菜をつくる農家です。
山肌に連なる棚田は昭和の初め、地域の人たちが自らの手で切り開きました。




山下
昭和恐慌のときに村の人がみんな満足に食う米がないので

子孫に米を食わしたいということで

8年がかりで開田して上にため池をつくってやったんですね。




農家の長男として生まれた山下さん、
終戦を迎えたのは9歳のとき、食料不足の時代でした。
中学卒業後、家業を継ぎ農業の道へ
牛を飼い、米や麦、野菜など多くの作物をつくりました。


池田首相(当時) 実質所得が倍になるということを、はっきりとここで申し上げます。


1960年台、日本は高度経済成長期を迎えます。
自由貿易に経済成長の活路を見出そうとした日本。
農業はグローバル化の波に初めてさらされます。


1961年、国は農業基本法を制定。
外国産農産物と競争関係にある農産物の生産を減らし、
需要の増加が見込まれるものに
生産を特化する選択的拡大を進めることにしたのです。
山下さんはこのときから日本の農業が大きく変わっていったと考えています。



山下
農業基本法ができて、選択的拡大で「もうからないやつはやめろ」と。

あの農業基本法のときから日本は食料を自給するという道を捨てたんだと思いますよね。

「もうからんけども必要だからつくる」っていうのが自給でしょ。

うちの畑、大豆もつくってた、小豆もつくって菜種もつくってました。

決してもうからないけども暮らしていくのに必要だからつくっていた。

しかし「もうかるやつだけつくって、もうからんやつはやめろ」っていうことは自給じゃない。



山下さんも、また国の農業政策に翻弄された一人でした。
農業基本法が制定された年に結婚した山下さん。
国の選択的拡大の方針に従い
みかんに農業の未来を託すことを決めます。
結婚式の翌日から日当たりのいい南向きの竹やぶを開墾し、
みかんの木を植えていきました。

しかし1988年、政府は日米貿易摩擦の解消のために
オレンジの輸入自由化を決定。
このままでは農業経営の足かせになる
、山下さんは丹精込めて育てた傾斜地のみかんの木を
全て伐採することを決めました。



山下
みかんを切ったときに私はもう国の農政は信じないと、自分は自分で生きていくと。



かつてのみかんの山を上がっていくと、すっかり元の竹やぶに戻っていました。



山下
切って焼かなきゃいけなかったからね。


大越
切って焼かれるときは・・・


山下
私と女房とで焼きに行きました。

そしたら、ずっとみかん園でしょう、もうあっちこっち煙が立っているわけだ、

どこでもみかん焼いているから。

みかん山の葬式と言ってましたけど、われわれは。

「国葬だわ」「国葬だ」と言ってました。

でね、女房と2人で焼いてしまって帰るときに下でこの山に向かって頭下げてね。

「長い間苦労させていただいてありがとうございました」って。

本当にそう、本当よ、これ。

人生ほとんど無駄にしましたからね、私。




今、農業はTPP交渉参加で再び大きな転機を迎えています。
攻めの農業の名の下、一層の規模拡大を進めようとする政府の方針に
山下さんは疑問を感じています。




大越
大規模化すれば、もっともうかるじゃないかというのは

ある意味この日本が選んできた国の施策ですよね。


山下
そうです、そうです。

単作にしないと規模拡大できない。

複合じゃ拡大できないわけですよ、いろんな物つくってるとね。

で、結局、単作、規模拡大化、機械化、その路線でいくと人が減ってしまう。

もうかると思ってみんながつくってたらもうからないですよ、

私はみかんでこりごりしましたけどね。

だってつくればつくるほど値段が下がるわけですからね。




日本の農業が生き残る道を現場で考え続けてきた山下さん、

地域の仲間と共に農産物の直売所を立ち上げました。

地域の農家がつくった新鮮で安心な農作物を地域の人々が買って食べる、

その姿にこそ日本の農業の未来があると考えています。




山下
世界の中で日本の農業が圧倒的に有利な条件が

たった一つあると気が付きまして。

それは生産地と消費地が非常に近い、

生産者と消費者が混住混在していることってことなんですね。

こんなところは世界中にありません。

ですから、そこで採れたものをそこに住んでる人が食べる

という仕組みがつくれれば、これほど強いものはないですよね。

流通経費もかからないし鮮度も悪くもならないし、

つまりそこに住んでる人がそこの農業を食い支えるという仕組みができれば、

これ何も怖くないですよ。

日本がそれに一番ふさわしい国だと思いますね。

小さい農家は残ると思いますよ、私は。

だから強い農業といいますけれど、強い農業が残るのではなくて、

残った農業が強いんですよね、うん。

ちゃんと残ってみせます(笑)





スタジオ


井上
食料は安い海外にもっと頼ってもいいのではないかという人すらいますよねえ。



大越
しかし、それでいいんでしょうかね。

山下さんは相手国の事情で

いつ不安定になってもおかしくない輸入食糧にこれ以上輸入に依存したのでは、

もはや国の体をなさなくなるというふうに話していました。

今、新しい分野としての攻めの農業に期待が集まっています。

ただ一方で最低限守るべきものを守らないと

食料自給率だけではなくて

緑に守られている環境も人々の共同体という姿も

失われてしまいます。

私たちはそのことに鈍感過ぎたのではないでしょうか。

もっと切実に考えなければいけないと強く感じました。



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